今年の「はならぁとこあ」は、郡山城下町、奈良きたまち、生駒宝山寺参道の奈良県北部3エリア4会場にて開催いたします。今年の4会場は、大正から昭和初期にかけて建造され、それぞれ遊郭、住居、工場、旅館の用途で使われていた、地元の歴史と縁が深く結びついている建物です。これらの個性豊かな会場で、現代アートの領域で実績を重ね、奈良にゆかりのある4組5名のキュレーターが、総勢約30組のアーティストと共に、奈良の地域性への新たな視点やその糸口を、現代アートの手法と思考によって導いた展覧会の形式にて表現します。
奈良の個性や魅力をただ一方向的に提示することが、「はならぁとこあ」における現代アートの役割ではありません。いつの時代も、多くの人々の関与の下で過去と現在の価値観の拮抗を重ねることにより、常に私たちの歴史と文化は熟成されてきた経緯があります。その例に違わず、これまで奈良の土地が蓄積してきた数多くの歴史と文化も、その価値を変化させながら現代に受け継がれています。さらに私たちの生きる現代は、社会のシステムの多様化によって膨大な価値観が混在する時代です。「はならぁとこあ」は、これら多数の選択肢の存在を示唆させ、かつ今昔へと思考を巡らせる橋渡しとなることで、今にふさわしい奈良の印象を見い出していただく機会になるはずと信じています。
今年の「はならぁとこあ」は会場間の連携を強化し、エリア間を周遊してじっくり楽しんでいただくための連携企画を複数用意しています。現代アートの展覧会と共に、会場周辺のまちなみも合わせて散策していただくことで、奈良の過去と現在、歴史と文化のみならず、日常の生活にも通底する新たな思考と気づきを持ち帰っていただければ幸いです。
○各会場展覧会概要
《工場跡》 在り処をみる
岩名 泰岳、衣川 泰典、松井 沙都子
現在という常に更新する時間には、さまざまな過去の記憶が積み重なっていきます。日頃の生活の上では、眼にとまらない些細な風景にもさまざまなひとの記憶が宿っています。あたり前に過ごす日常生活のなかでは気付かない風景もあります。悲しい事ですが、記憶が蓄積された些細な風景というものを失うことでしか気付かないことも現実的にあるかと思います。しかし、「失う」という大きな代償はひとの心に大きな穴をあけ、私たちの心や感性に渇きを与えることに?がるかもしれません。
ここ奈良きたまちにおいて、古代から近世としての「過去/歴史」と近代から続く「現在/現代」をつなぐ象徴的な場所である「工場跡」を舞台に、3名の作家の作品を展示します。
些細な日常の風景や私たち自身を俯瞰的に見つめ直し、独自の解釈や表現でひととして失いつつある精神性に光をあてます。それによって、さまざまな記憶の重層としてある現在の風景に、私たちの心の中にある原風景を見いだす機会になればと願います。
《旧川本邸》 メモリフラグメント ー追憶の追走ー
大坪 晶、西尾 美也、平澤 賢治、Re:planter
郡山城下町エリアは、キュレーター2人にとって高校3年間を過ごした思い出の場所でもあります。今回私たちは「記憶域上で生じる隙間(メモリフラグメント)」をテーマに、大正13年に建てられ、今もなお上流花街の面影を色濃く残す遊郭建築「旧川本邸」を舞台に展覧会を開催します。
「記憶」とは何か。
本展では、街や人が持つ固有の記憶を素材に、アプローチの異なる4名の作家が、この大きな問いに挑みます。過去・現在・未来、または自己と他者との「記憶の隙間」。それぞれの持つ「隙間」を作品や空間で表現する中で、その問いの答えを探っていきます。
また、旧川本邸は格式高い機能的な遊郭建築で、建物自体にとても魅力があります。その特徴を活かし、展示順路を設けて会場を巡る構成にしました。会場内では、次々と作家が表現する「記憶の隙間」が現れ、行き来しながら様々な記憶が交錯し合うことでしょう。これらが来場者の持つ記憶に揺さぶりをかけることで、「記憶」について考える一助となればと思います。
《南大工町の家》 すます/見えてくるもの 聞こえてくるもの
今村 遼佑
南大工町の家は、すぐ近くのガソリンスタンドで働く人とその家族が暮らす寮であった。その世帯それぞれの営みがあったことだろう。しかし残念ながらこの家は20年近く住人をもたず、以来歴史は止まったままである。中庭の二本の木だけが陽の光を浴びて、明るく悲しく輝いている。
もともと定住者を持つことを目的としない、そして無人になってからは、誰からの思い入れも感慨も得られないかのように過ぎていったこの家のニュートラルな存在を逆に特徴として、荒れたホワイトキューブととらえたい。現代美術にぴったりの場所。
ようこそ今村遼佑さん、束の間の新たな住人。かつてこの家が、異なる家族を受け入れてきたように、あなたもやさしく迎え入れられることだろう。
そして皆さんも、腰を落ち着けて、目と耳を澄ましてください。私たちの感覚は徐々に研ぎ澄まされ、沈黙していたかに思えたこの家の、ノイズと密度の高さに気づくだろう。
《旧たき万旅館》 Creator Creature Gathering Festival
はまぐちさくらこ、トーチカ、栗田 咲子、谷澤 紗和子、佐伯 慎亮、大井戸 猩猩、いくしゅん、高木 薫、谷原 菜摘子、Rick Potts、木村 まさよ with 月眠、石上 和也、坂口 卓也、竹内 カロン、カガマサフミ、シモーヌ深雪、佐伯 真有美、PIKA☆、ぺーどろりーの/ひのあゆみ
古今東西、表現者は有象無象の創造主であり、彼らが生み出す作品は創造主の意図を離れ、それぞれに個性を持つ怪物といえるでしょう。彼らは常に世間を騒がせながら、文化芸術を前進させてきました。
会場の宝山寺参道は、日本二大聖天の一つ生駒聖天として長く信仰が息づく地であり、風水でも生駒山は龍が走るとも言います。また参道は少し前まで関西の奥座敷として隆盛を極めたという、幾重にも重なる独特の「気」に満ちた場所であり、さらには会場の旧旅館も増改築を重ね、入り組んだ構造の混沌空間となっています。
「はならぁと」という縁でこの特別な場に怪物達が召還され、10日間の百鬼夜行の異界を創出します。この非日常の異界で人と怪物達は出会い交わり、その化学反応は体験者の価値観を揺るがすかもしれません。 また生駒は魅力的な住宅地というイメージがありますが、最近は若手アーティストが移住して新しいコミュニティが生まれています。新旧の生駒の魅力を併せてご紹介できればと思います。
短く表示