サーファーが波に乗るようなものだよ。
そう言って、すらりとした長身の男は竜巻の中へ飛び込んでいく。
メキシコシティの雑踏の中でも、イスラエルとパレスチナの境界線上であっても、
常に同じ軽やかさをもって、アクションをおこしてきた。
それがアリスの世界の歩き方。
今、最も注目すべきアーティスト、待望の日本初個展。
砂塵を巻き上げる竜巻の中へカメラ片手に突入する。朝から晩まで、メキシコシティの街なかで巨大な氷を溶けるまで押し続ける。こうしたフランシス・アリスの行為は、一見すると無謀で滑稽なものに映るかもしれません。しかし、その一つ一つの行為は私たちが生きる社会の寓意として、決して見過ごすことのできない現実を浮かび上がらせます。
メキシコ在住のアーティスト、フランシス・アリス(1959-)は、都市の中を歩きまわり、そこから 見えてくる日常に潜む問題をとらえて、作家が街なかで行うアクションから数百人の参加者を ともなった大規模なものまで、さまざまなプロジェクトを世界各地で行ってきました。そうした行為は、記録映像や写真、物語性をもった魅力的な絵画、ドローイング、ときにはポストカードまで、多様な形で展開していきます。
アリス作品の多くは、作家が生活するメキシコの社会的、政治的問題を扱っていますが、詩的でウィットに富んだ表現によって、特定地域の問題さえも誰もが共有できるものにしてしまうその卓越した表現力は、国際的に高く評価されています。
本展は二期にわたって、初期作品から新作までアリス作品の全貌を明らかにするものです。第1期では、メキシコで行った約15のプロジェクトを、映像を中心に写真や絵画、彫刻を通して紹介し、作家のこれまでの表現活動を概観します。一方、第2期では、ジブラルタル海峡で行った大規模な新作プロジェクト《川に着く前に橋を渡るな》に焦点をあてて、その記録映像、絵画、ドローイング、インスタレーション、彫刻、写真など約140点を発表します。
社会が大きな変化を迎えている今、アートは社会においてどのような役割を担うことができるか問われています。そうした中、寓意に満ちた物語の力によって現実と向き合うアリスの姿勢は、現実社会に対するアートの可能性をあらためて提示することになるでしょう。
第1期: MEXICO SURVEY メキシコ編
2013年4月6日(土)- 6月9日(日)
アーティストとしての自身の立場をユーモアたっぷりに表明する《観光客》(1994年)や、メキシコシティの街なかで巨大な氷を解けるまで押し続ける《実践のパラドクス1(ときには何にもならないこともする》(1997年)など、第1期では活動拠点のメキシコで制作した作品に焦点をあてて、作家のこれまでの活動を概観します。
第2期: GIBRALTAR FOCUS ジブラルタル海峡編
2013年6月29日(土)- 9月8日(日)
アフリカとヨーロッパを隔てるジブラルタル海峡で行った大規模な新作プロジェクトを紹介します。移民問題を背景に、アリスはこどもたちとともに想像力をもって二つの大陸に橋を渡す試みを行います。本プロジェクトを、映像、インスタレーション、絵画、ドローイングを通して紹介します。
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